起業の挫折と再起について、『100話で心折れるスタートアップ』作者・えいさんと語ってみた
こんにちは!
今日は、「起業の挫折と再起」というテーマで、Twitterスペースで配信した内容を記事化したのでお届けします。
この配信ではゲストとして、昨年Twitterで話題になった漫画『100話で心折れるスタートアップ』作者・えい(@HeartBreakSU)さんをお招きしています。
4月30日に書籍版が発売予定の本作の内容をもとに、スタートアップの起業について語っています。
きせかえできるNFT「sloth」、一般販売中です。
この記事の内容は、Twitterスペースの録音から聴くこともできます。
起業から挫折までを100話で描く
けんすう:今日はお忙しい中、ありがとうございます。
えい:いえいえ、こちらこそお呼びいただいてありがとうございます。
けんすう:えいさんのことは、スタートアップ業界の人はよく知っていると思いますが、初めての方もいらっしゃると思うので、最初に簡単に自己紹介をしていただきたいと思っています。
えい:ありがとうございます。えいと申します。半年ぐらい前に、Twitterで『100話で心折れるスタートアップ』という漫画を連載させていただいていました。
そして今回、その漫画の書籍化が決まりまして、今月末に発売される予定です。
けんすう:おめでとうございます。書籍化される前は、もともとAmazonで自主出版していましたよね。
えい:そうですね。自主制作というか、個人で出版していたのですが、今回はちゃんとした出版社から本が出ます。
けんすう:素晴らしいですね。ちなみに発売日はいつですか?
えい:予定では4月22日(※4月30日に変更になりました)です。
けんすう:ありがとうございます。「100話で心折れるスタートアップ」というのは、知らない方に説明すると、どんな内容なんでしょうか?
えい:スタートアップを起業して、失敗するまでの話を100話で描いています。
実は僕も同じような経験をしていまして、けっこう実体験に基づいた話が多いんですけど、リアリティを持って伝えられたかなと思います。
けんすう:なるほど。スタートアップ業界では話題になりましたが、「あるある」とか「読んでいて胃が痛くなる」みたいなコメントを見かけた記憶があります。反響的にはどうでしたか?
えい:そうですね、僕はこれを描いていることを周りに言っていないんです。ペンネームの「えい」名義で描いているんですが、Twitterで見られる以上の反響はあまりないです。
けんすう:じゃあ、普通にえいさんはリアルな生活では、この作品の作者であることを公開していないんですね。
えい:していないです。5〜6人しか知らないと思います。
けんすう:そうなんですね。言いたくなったりしないんですか?
えい:あくまでモデルとしてですが、漫画の中でよくない描き方をした方が何人かいるので、実際に僕と関係があるので、僕から辿られるとその人に不利益があるかなと思って。
けんすう:要するに、あの漫画のキャラのモデルになった人たちの中で、自分のことだと思うような人も出ているってことですか?
えい:そういう可能性もあるかなと思っています。なので特定されちゃうと、僕はいいとしても、その人が不利益を被るのはよくないかなと考えていて。
けんすう:確かにそうですね。いらぬ誤解を招いたりはよくないですし、漫画ならではの演出もあると思うので、変に結びつけられちゃうのは避けたいですよね。
ちなみに、どうしてこの漫画を描こうと思ったんですか?
えい:もともと漫画を描いてみたいと思っていたんですが、描けるものって何だろうと考えたときに、Twitterでの「100話で〇〇」というやり方に乗っかることで、面白くできるんじゃないかと考えました。
その上で、スタートアップを起業して失敗するポイントって結構どの会社も共通していると思うんですけど、それを漫画で描いて周知できれば、スタートアップ全体が成功しやすくなるんじゃないかと考えて、ああいった内容を描きました。
けんすう:結構、反応が二分されていて、起業していない人から見たら、「こんな辛いことが起こるなら起業なんて絶対やりたくない」という反応がある一方、起業家からすると「これくらい普通だろ」という反応もありますよね。
えいさんの中では、あの漫画の内容だと、心折れる度合いはどれくらいですか?
えい:10段階で5ぐらいじゃないですかね。真ん中ぐらいです。
けんすう:なるほど、ちょうど中ぐらいって感じですね。特に反響が多かったエピソードやシーンはありますか?
えい:そうですね、ネズミさんという、ウサギさんの大学時代の友達と久々に飲んだ話で、「タダでアイデアをあげるよ」と言われるシーンがあるんですね。それがすごく反響が大きかったです。
けんすう:こういう人っているよねという感じでしょうか。
えい:そうですね、「いるよね」とか「ムカつく」とか。
けんすう:確かにスタートアップをやっていると、「このアイデア、いいでしょ」的な感じで言ってくる人がいるけど、こっちは本気で考えているので、「そんなアイデアは何周も前に思いついた上で却下しているんだよ」みたいなことはありますよね。
あとは、基本的にアイデアを思いつくことは簡単で、それを実行することこそが難しいものなので、「アイデアをあげるよ」と言われてもイライラしちゃうという感じですよね。
えい:そうですね。イライラさせるために言っているわけではないのは分かるので、余計に行き場のない感情を持ってしまうことがあると思います。
けんすう:100話できちんと着地するストーリーということは、最初からある程度の流れは決まっていたんですか?
えい:はい、実は始める前に101話分、何話でこれが起きるみたいに、内容を決めてから取り組みました。
けんすう:決めてからやっていたんですね。でも反応を見ながら変えたところもあるのでしょうか?
えい:あります。実は11話までを最初に準備して、そこまでの反応が良くなかったら投稿をやめようと思っていました。
でも徐々に反応が良くなってきて、50話を超えたあたりから安定してきたので、最後までやろうと思いました。
けんすう:なるほど、最初は続けるかどうかも分からない状態だったわけですね。最終的には作品のNFTも出されましたが、その反応はどうでした?
えい:実は10分足らずで完売しまして、想像以上の反応をしていただけたので、とても嬉しかったです。
けんすう:すごいですね。うちの会社のメンバーも熱心に読んでいて、NFTをすぐに手に入れていました。
社長の仕事の難しさ
けんすう:抽象的な話になりますけど、起業で一番大事だと思われることは何ですか?
えい:人だと思います。作中のウサギさんと同じで、私が会社をやっていた当時もエンジニアやデザイナーが開発やデザインを担当し、他は私が行っていました。
スタートアップの社長はつい事業ばかり見て、なかなか社員を見られないんですね。そのせいで組織が崩壊してしまったので、やはり人を大切にすることが重要だと思います。
けんすう:なるほど、確かに。社長が社員を大切にして信頼される一方で、事業が伸びないというパターンもありますし、難しいところです。
えい:そうですね。どうしても社長が一番モチベーションが高くて、他のメンバーはそれより低くなるじゃないですか、構造的に。
けんすう:分かります。
えい:昔、それに対して怒っていたんですよ。「なんでモチベーションが高くないんだろう」と思っていたんですが、そういう接し方は良くなかったなと今では思います。
けんすう:そうですよね。多分、自分と同じくらいのモチベーションで事業に取り組んでくれることを期待してしまうんでしょうね。
えい:そうですね。それくらいのことは、当然だと思ってしまうんですけど。
けんすう:当たり前ですけど、立場が全然違うので、そんな状態にはならないですよね。
えい:あり得ないですね。
けんすう:もしそういう人がいたら、本当に奇跡的な良い人を見つけられたという感じになりますね。
また、『100話で心折れるスタートアップ』では描かれていないけれど、こういう失敗をしたという経験など、何か思いつくものはありますか?
えい:実はエピソードの案としては、150個ぐらいあったんですよ。
けんすう:そうなんですね。じゃあ、結構削ってるんですね。
えい:そうなんです。あまりに過激すぎて描けないものもあって。
けんすう:描かなかったのは、どんなものですか?
えい:例えば、VC(ベンチャーキャピタル)のアソシエイトに「全然理解できません」とか、「何が良いか分からない」と言われるとかは描きませんでした。
けんすう:あー、それはよくありますよね。
えい:会社を応援してくれる側からもそういう話を聞くことがあるんですけど、それは描かないほうが良いかなと思いました。
けんすう:確かに、僕も前にやっていた会社で、とあるVCの人から「何度聞いてもまったくピンと来ない」と言われたことがあって。
投資家からそう言われることはよくありますが、それはしょうがないことだと思います。
僕も投資の話とかが来るんですが、話を聞いたときに「マジで分からん」とかはよくありますし。
えい:そうですね。
けんすう:僕たちも今、「sloth」という着せ替えできるナマケモノのNFTをやっていますが、投資家に説明しても「よく分からない」みたいな反応がありましたね。
まあ、突然「ナマケモノのNFTを作ります」と言われても、理解するのは難しいですよね。
けんすう:確かにそういったエピソードは、人と人が絡む部分なので、読む側にダメージがあるかもしれないですね。
えい:そうですね。なんとなく、内容を3割ポジティブ、7割ネガティブにしようと思っていたんですけど、実際に描いてみたら9割ネガティブになっちゃったので、しんどいものから削っていきました。
けんすう:ちなみに好きな起業家の方とか、いらっしゃったりしますか?
えい:僕は自分で手を動かしたいタイプなのですが、会社を大きくするにはそれをずっとやってるとよくないので、権限委譲がうまくできる人に憧れています。
けんすう:スタートアップあるあるの悩みですよね。先ほどの話もそうだと思いますが、自分と同じパフォーマンスを出す人はいないわけですから。
特に社長の仕事では、薄く広く見ることが多いのですが、それら一つひとつの仕事で自分と同じパフォーマンスを出すことを一人の人間に求めても、思い通りにはいきません。
一方、自分のやることを分割してみたら幅広いタスクが絡み合っているので、人に任せようとしても、組織的にコミュニケーションがうまくいかなくなることがありますよね。
そういったことが起こると、もう自分がやろうという意思決定になりやすいのは確かにありますね。
えい:ありますね。「全部自分でやったほうが早い」問題ですね。
けんすう:そうですね。事実、短期的には早い部分があるので、難しいところです。
えい:実は今、新しい会社を作ろうとしていて、またスタートアップを始めようと思っています。次は気を付けていきたいですね。
けんすう:そうなんですか!それはいいですね。ちなみに、言える範囲でどんなことをやろうとしていますか?
えい:NFTのゲームです。新しい事業をやろうかなと思っています。
けんすう:へー!いいですね。
えい:ありがとうございます。
組織づくりの難しさ
けんすう:せっかくなので、今のNFT業界についてもお聞きしたいのですが、何か思っていることはありますか?
えい:今は結構落ち着いていて、波でいうと下のほうだと思っています。
去年の画像が中心のNFTブームはすでに終わっていると捉えています。今後はユーティリティ(※NFT保有者に提供される付加価値)が大事だと思っています。
けんすう:なるほど、ユーティリティが大事。何か注目しているプロジェクトはありますか?
えい:今は、DigiDaigakuや海外のLimit Breakなど、ゲーム系のNFTコレクションに注目しています。
けんすう:大胆な動きで面白いですよね。
えい:LimitBreakは、「今後はフリーミント(※無料でNFTを生成できること)が来る」とずっと言ってるんですよ。
理由を聞いてみると、確かにそうだなと思う部分があるので、その動向がどうなるかも含めて、チェックしたいなと思っています。
けんすう:確かにフリーミントで配って、ゲームで何かをさせる。DigiDaigakuも、そっちの方向ですもんね。
ちなみに前回の起業ではうまくいかなかったことを踏まえて、今回の起業ではどうやっていこうか、組織はもっとこうしたほうがいいよねとか、そういった考えはありますか?
えい:そうですね。漫画でも描いたんですけど、過去は組織の人数を一気に2人から10人ぐらいに増やしたんですよ。
組織をちゃんと見れていなかったので、当然、不和が起きますよね。
だから今回は、必要な人数を増やすんじゃなくて、限られた人数でやれるような事業にしようかなとは思ってます。
けんすう:確かに、急成長に合わせて人を雇って組織が崩壊するのはよくある話だし、一方で人を雇わないと競合に抜かれたりするので、慎重に人を選ぶことが一番ストレスがかかる意思決定の一つですね。
えい:ちょっと前回はやりすぎたので、今回は抑えめにいこうかなと思っています。
最適な人数がどれくらいかはっきりとは分からないので、様子を見つつやるしかないなとは思います。
けんすう:昔、グルーポン系のサービスが流行ったときに採用しまくっていた会社があったんですけど、結局潰れちゃったみたいです。
面接が忙しすぎて、山手線のホームで電車を待っている間の5分で面接して採用してたみたいな話を聞いて、すごいなと思ったんですけど、やっぱり組織的には不安定になったみたいです。
競争が激しいから、そこまでしないと負けると分かっていたのもあるでしょう。それを愚かだと批判するのは簡単ですが、実際にその状況になったら、そうするしかないと感じることもあると思います。
えい:はい。特にNFTはこれからもっと多くの会社が出てくると思うので、人材の取り合いになったときにどうしようとかは考えますね。
けんすう:そうですよね。最近では正社員で雇う以外の選択肢も増えてきていて、DAO的にやりましょうというところもあります。
最近話題のWeb3系では、所属する全員を業務委託にして、一律の報酬でトークンがもらえるような形にしている会社があります。
普通のスタートアップでは正社員で採用することもありますし、最初は全員が副業というパターンもある。昔に比べて、いろんな形が出てきていてすごいなと思っています。
組織の作り方にも幅が出てきている分、何が正解かが難しくなっている気がします。
えい:うちでは、数名の正社員に加えて業務委託でやろうと考えてるんですけど、まだ確信を持って進めているわけではないので、この形のままでいくかは決まっていません。
いい形が見つかったら、また共有していけるといいなと考えています。
けんすう:起業家の皆さんはみんな同じような悩みを抱えていると思います。
社長が考えることとして、社員やメンバーが理解できない苦悩もあると思いますが、何か思い浮かびますか?
えい:そうですね。これは漫画にも描いたんですが、例えば社長がVCとの飲み会に参加することがあるんですけど、それって遊びだけではなく、仕事に関係する話も多いじゃないですか。
ただ、それが飲み屋で行われるから、遊んでいるように見られることがあります。
実際に私もそう言われたことがあって、私たちは夜まで仕事をしているのに、社長は何で飲んでいるんだという感じですね。
けんすう:確かにありましたね。実際はその後も夜遅くまで仕事をしていたりしますが、それは見られていないとか。
えい:その時間にはみんな帰ってしまっていますからね。
けんすう:特に出資に関しては、投資家との人間関係のメンテナンスをちゃんとして、人間関係ができているからこそ、出資に至ることが多いので。
プライベートな時間で会わないと、うまくいかないこともあるし、ただ飲んで雑談しているだけだと思われてしまうこともありますよね。
えい:そうですね、確かに雑談ばかりしているのは、間違いないんですけど……。
けんすう:そうですね。例えばNFTについての雑談をして、「この人詳しいのかな」と思われてつながることもありますよね。
しかも、そのつながりが4年後だったりすることも珍しくないですからね。
えい:その部分は、社員から見ると理解しづらい部分だと思います。
けんすう:確かにそうですね。でも、全社長にとって起こり得ることです。
要するに、未来への投資の一つとして、人間関係に投資しなければならないので、案件につながらないようなお茶したり飲み会に参加したりがとても重要になってくるわけです。
一方、一般の社員からすると「これは4年後につながるかもしれないんだ」と言われても、理解しづらいですよね。
Web3 / NFTでの起業はどうなる?
けんすう:最近、NFTで起業する方も多いと思うのですが、そういった人たちが挫折しにくい方法など、何か思いつくことはありますか?
えい:そうですね。NFTに限らずですが、最初のセールを成功させた後に、続ける意欲を失う人が多いと感じます。
昨年頭くらいには、NFTバブルの時期がありましたね。海外では、初回のセールで10億円程度売り上げる事例があったので、その後は仕事をせずにバカンスに行くといった流れがありました。
日本でも同じようなことが起こりそうだと思います。
けんすう:確かに、その後に頑張っても頑張らなくても、もう入るお金は同じだから、継続する意義が見出せなくなるのかもしれません。
えい:そうですね。もし頑張る必要がないと言われたら、納得してしまうでしょうし。
けんすう:それでも、そのような状況が起こり得る構造になっているということですよね。
えい:そういった起業家が多いのだと思います。
けんすう:彼ら自身は挫折とは思わないかもしれませんが、やっぱりその後はうまくいきにくいですかね。
えい:一回それを経験したあとに、またスタートアップとして価値を提供できるかどうかは、確かに怪しいですね。
辛くてすぐにやめちゃうとか、一度成功してしまうとやめる癖がついてしまうかもしれませんよね。
これがラーメン屋さんを始めた場合だと、1ヶ月で10億円売り上げるようなことは、まずないと思うんですけど。
けんすう:確かに、Web3やNFT系は、かなりの可能性がありますからね。
一方、一般のユーザーが興味を失っているときは、普通の事業と比べてより大きく沈むことがありますね。
例えばクックパッドのようなサイトでは、浮き沈みはあるでしょうが、お客さんが料理をしないみたいなことはないので、そこまで大きな沈み方はしないと思います。
けれどNFTの場合、僕もデジタルアートを購入して価格が下がっているときは、NFTに触りたくないような気持ちになったりします。
だから、NFT業界はかなり特殊だと思います。将来的にはどんどん拡大していくと思うのですが……。
これからどんなNFTが増えていくといいとか、何か予想はありますか?
えい:そうですね、話が少し逸れるかもしれませんが、フリーミントは増えると思います。
現在でも、たくさんのNFTがありますが、これから企業がどんどん参入し、それぞれの企業が5000個ずつNFTを増やしていくような時代になると、ユーザーが追いつけなくなってしまいます。
そうなると、ユーザーは安いものから買っていくような流れになると思います。
そして、最終的にはフリーミントにたどり着き、企業がお金を払ってフリーミントされるような使い方になっていくと思います。
けんすう:確かに、それはあるかもしれませんね。
えい:スマートフォンアプリのゲームと同じような流れになるんじゃないかと考えています。
最初は有料だったものが徐々に無料で配布されるようになり、後から課金するような形になっていくと予想しています。
けんすう:ゲームだとプレイして楽しいかどうかを試せますが、無料で物を配ると、飽きられてしまうのではないかという懸念があって。
例えば、無料で本を配ると言って、毎日のように2〜3冊本が送られてきても、読まないと思うんです。
もらっておこうとは思われるんじゃないかと思いますが、そこで終わってしまって、ユーザーが飽きてしまうんじゃないかと。
えい:確かに、その心配はありますね。だからこそ、お金を払ってもらわれる方向になるのだと予想しています。
飽きられても大丈夫で、広告費をペイできればいいという発想になるのかもしれません。
例えば、5000円払ってNFTを取得してもらい、後から6000円使ってもらえればいいのかなと思います。
そういう計算でやっていく会社が増えていくんじゃないかなと。
けんすう:ちなみに僕は昔、CGM(※ユーザー投稿型のメディア)をやっていて、2010年頃には企業がお金を払ってユーザーにコンテンツを投稿してもらう仕組みができそうだと考えていました。
当時はクラウドソーシングのサービスがまだなかったので、自分たちでそれを作るところからやりました。
そうすると確かにたくさんの投稿が集まったんですが、ユーザーはより仕事っぽく捉えるようになり、投稿するコンテンツへの熱量が下がっていくみたいなことが起こりました。
しかも、ユーザー側がお金を払って作っている場合だと、特に文句とかは出ないんですけど、ユーザーがお金をもらって作業するようになると、文句が出始めるのは面白かったです。
なので会社でも、例えば社員に対しては何十万円というお金を払って毎月仕事をしてもらっているけど、基本的に会社員って不満が溜まってしまう構造だと思うんですよね。
むしろオンラインサロン的なもので、ユーザー側がお金を払っている場合だと、モチベーションがとても高い上に不満も出てこなかったりするので、不思議な感じがあります。
えい:ちょっとDAOっぽい感じですかね。
けんすう:そうですね。どのタイミングでインセンティブが与えられるかで、例えばフリーミントで5000円あげるとすると、それが1時間ぐらいでできる何かでもらえるなら、時給5000円みたいに捉えられてしまいます。
そうすると、時給300円みたいに捉えられるものとかは、なんかバカバカしくなっちゃうとか、そういうことが起こるんでしょうね。
えい:そうですね。だからこそ、もらえる金額が高いDAOに人が集まってDAO全体の水準が高くなるという流れがあると思います。
そうなると、結局やっていることは今とそんなに変わらないとは思いますね。
けんすう:漫画でも、昔は漫画は有料で買うものだったけど、今は少年ジャンプ+などで、無料で一回は読めます。
最近だと新連載一話目を読んだら、逆に30ポイントがもらえるとかがよくあります。
なので、その辺は結構加速しそうだなと思っています。NFTを持っていたら100円あげますみたいなやり方は、すごくありそうですね。
えい:そうですね。あとはNFTを持っていたら、どこどこのサービスが安くなるとか、特定の会員になれるとか、そういうのが結構あり得るケースだと思います。
起業の失敗にはパターンがある
けんすう:今、リプライで質問が来ていますね。「本を購入する際、書店での特典などはないのでしょうか?」。
えい:ありませんが、DMいただければサインして返します。
けんすう:サインをもらえるんですね。
えい:はい、いくらでも。
けんすう:書店イベントとかは行うんですか?
えい:今、その辺は準備中ですね。切羽詰まってやっています。
初めての出版なんですけど、業界の慣習が結構違っていて、準備というか戸惑いに時間が取られることが多いですね。
けんすう:この辺、Amazonで1位を取ると本屋営業が楽になったりとか、詳しい人がいるので、そういう人に聞くといいかもしれません。
僕はあまり詳しくないんですが、いろんな方法を聞きますね。
えい:もう少しで販売なので、できることはやってみます。
けんすう:楽しみですね。実は僕もあとがきを書かせていただいていて、本を買った方は僕のあとがきが読めるという小さな特典があります。
えい:ありがとうございます。
けんすう:この本は失敗事例がたくさん描かれていて、それぞれの失敗談について参考になる部分がありつつ、「全体としては点と点が線になっていないのが問題だよね」みたいなあとがきを書きました。
けんすう:結局、起業で一番あるあるなのが、行動が点になってしまっていて、線になっていないことだと思います。
一方で線にしようと頑張りすぎて、本当は全然違うことをやったほうが伸びたのに失敗してしまったというケースもあるでしょうし、一概には言えないんですけど。
それが起業の難しさであり、醍醐味だと思っています。
えい:確かに、局所的に見ればそんなに間違ったことをしていないのに、成功しないというケースも結構ありますよね。
けんすう:そうですね。知識だけ身につけてしまうと、ありがちだったりしますよね。
『成功者の告白』という本がありまして、そこでは「こんな辛いことが起こるよ」っていうストーリーが小説風に書かれていて、でも大体の起業家にも似たようなことが起こるんですよね。
えい:はい、はい。
けんすう:そういったことって、事前に知っておくことでダメージが少なくなるので、事前に知っておくことであまり傷つかないようになればいいなと思いますね。
えい:『100話で心折れるスタートアップ』は現在、いわゆる“磯崎本”(※『起業のファイナンス』)を目指しています。
けんすう:磯崎本、ですか。
えい:はい、あの有名なスタートアップファイナンスの本です。あれくらい、一家に1冊という感じで、持っていただけるといいなと思っています。
けんすう:起業系の本に書いてあることは普通に起こりますし、それで心が折れるかもしれませんが、人間は恐ろしいことに慣れるんですよね。
えい:慣れますね。
けんすう:どれもおそらくパターンは同じなんですよね。なので、驚くことはあまりないように思います。
えい:そうですね。起業をすると大体、『100話で心折れるスタートアップ』に描かれているようなことを皆さん経験されると思います。
起業する際に、それが普通だと知っているだけでも、気が楽になると思います。
けんすう:そうですね。みんな自分だけに珍しい辛いことが起きていると思いがちですが、大体みんな経験しています。
大企業の人に聞くと、社員が例えば300人、500人を超えると、痴漢で捕まる人が絶対に出てくると言っていて、あとは社員が1000人を超えると、会社のお金を横領する人が出てくるとか。
当然、仕組みである程度カバーできますけど、確率として、普通にそのタイミングで起こるんだなと知っておくと楽ですよね。
えい:はい。創業者同士が喧嘩することとか、ほとんどの会社で起こりますし、創業メンバーが辞めると「ひどい会社だ」と思われることもありますし。
実際は、みんなが経験していることなので大丈夫だとよく言っています。
けんすう:そうですね。創業者同士は揉めるし、普通に辞めます。
ただ、辞めたときに「今、あの会社がやばい」とみんな噂するけど、実際にはそこまで大事ではないことが多いです。
あと、あるあるなのが「あの会社は今、人が抜けてやばいらしい」という噂が流れてきたときは、大抵そこまで深刻ではない感覚ですね。
猫の抜け毛とかと一緒で、新陳代謝のタイミングなのかなと。
逆に、「あの会社がめちゃくちゃ人を採用しているらしい」みたいな話が出てきたときのほうが、何かやばいことが起きるかもっていう感覚がありますね。
えい:確かに不思議ですね。あれは何なんでしょう。
けんすう:何なんでしょうね。
会社に雇われていたときの経験を話すと、周りの優秀な社員が5人ぐらい辞めると、「屋台骨が抜けてしまったけど、この会社は大丈夫なのか」と思うことがありますけど、実際は割と問題なかったりしますよね。
逆に優秀な人が抜けると周りが何とかしないといけないというので育つので、結果的に残った人にとっては良いことになったりするケースもあります。
この辺の起業したら起こる辛いこととかは、やはりパターン化できる気がしますね。
一方、アンチパターンもだいぶ溜まってきているので、皆さんがそれを学んで失敗しなくなっている傾向もありますね。
えい:なるほど、なるほど。
けんすう:以前はもう少し雑な失敗もよく見かけた気がします。
えい:「最初から株を30%渡してしまう」みたいな失敗は、もうあまり聞かないですね。
日本とシリコンバレーの違い
けんすう:よく言われるのが、日本よりもシリコンバレーのほうが、ガチガチにテンプレート化されているってことですね。
成功パターンを踏襲するので、契約書や株主比率も決まっていて、パターン通りにスタートアップを成長させられるようになっていると、シリコンバレーにいる人が言っていたりします。
えい:なるほど。
けんすう:今の主流は、あまりいい話じゃないですが、レイオフに関してもシリコンバレーはパターン化していて。
これはとある会社の人が言っていてギョッとしたんですけど、最近ではエンジニアがクラウドサーバーのような扱いで、レイオフと採用を繰り返している会社が増えていると聞きました。
10年前はエンジニアを超大事にして、福利厚生やフリーランチを充実させていましたが、今はエンジニアをクラウドのように扱うほうがうまくいくと言われているらしいんですね。
えい:なるほど、そういう流れになっているんですね。
けんすう:本当かどうか知らないですけど、アメリカらしいですよね。日本ではそういった意見はあまり出てこないし、言えないですよね。
僕とかは、人をそんなにシステマティックに扱うのは怖いんですが、合理性を追求するとそうなるんだなと、面白かったです。
えい:日本では、そもそも簡単に首を切れないという文化がありますしね。
けんすう:そうですね。日本では、社員を大切にしようとする文化や制度があるので、新卒も育てるし、そもそもスキルがなくても雇おうという考え方ですよね。
アメリカでは、すぐに人を辞めさせることができるので、マネージャーにごまをすらないといけないという話を聞くんですよね。
日本では上司に文句を言ったり、反論をしても大丈夫な文化があるけど、アメリカだとマネージャーやボスに意見するのがすごく怖いと聞いて、驚いたことがあります。
えい:そういう状況は、働く側からすると息苦しそうですね。言ってはいけないこととか、言えなくなりますね。
けんすう:Googleで働いていて、優秀な名物社員の人がいて、影響力もめちゃめちゃある人なんですけど、サクッとレイオフの対象になったという話を聞いて、めっちゃ怖いなと思いました。
15年間、検索に関わる重要な仕事をやっていた人が、今、Google以外でどこに行くかっていうと、日本だと検索の会社がないじゃんとなってしまうという。
ちょっと驚きと悲しみがありましたね、もったいないなと。
何というか、3割レイオフしようってなって、機械的に首を切っていくのは、僕にはちょっと無理ですね。難しいと思います。
だって生活とかあるじゃんとか思っちゃうんですけどね。
えい:確かに、子どもがいたりすると大変ですよね。
けんすう:そうですね。でも、子どもがいなければいいというわけでもないですし、想像つかないっていうか、どういう心持ちなんでしょうね。
ある会社の社長さんがいて、とあるサービスが大成功したので、その他のサービスを縮小して、他社に売却する動きを取っていたんです。
そうすると、売却されたサービスの社員は、超有名な会社から突然知らない会社の所属になるわけで、社長宛てに脅迫メールが大量に来ていたそうです。
でも、その社長は全部無視して、社員と一切コミュニケーションを取らないと言っていました。それはすごいなと思いました。
コミュニケーションを取ってしまうと、そんなことできないと言っていましたね。
その人を知っていると情が移りますけど、知らなければ機械的に経営判断ができるのかもしれませんね。
えい:なるほど、確かに。
けんすう:でも今話していて、やっぱり僕には無理だと思いました(笑)。
えい:私にもそれは無理ですね。
さいごに
けんすう:話題を結構変えるんですが、NFTの中で良いと思うものはありますか?
えい:ちょっと前の話になりますが、NOT A HOTELのNFTはすごく良いと思いました。
けんすう:あれ、やっぱり良いですよね。
知らない方のために説明しますと、ホテルに泊まれる権利を80年分NFTで購入できて、毎年泊まれる鍵のNFTが送られてくるんです。
その年に泊まらない場合は転売もできるし、お得な価格で泊まれます。
まるでホテルを所有しているかのような感じで楽しめるし、その泊まる権利は売ることもできるので、80年後にはプラスになるかもしれません。
これはNFTでないと実現できない仕組みなので、僕もすごく良いと思います。
えい:同じ理由で、僕もすごくいいと思っていました。
「NFTじゃないとダメなの」って言われると、そんなことないプロジェクトも多いと思うんですけど、これはまさにNFTじゃなきゃダメなので。
NFTの特性をうまく活かしていてすごいなと思っています。
けんすう:最後に自社の宣伝もしちゃいますが、slothという着せ替えのNFTプロジェクトをやっているんです。
やっぱりNFTって、どこを一番見るかというと、流通総額やフロア価格と呼ばれる最低価格がめちゃくちゃ見られてしまっていて。
結局、NFTの価値って何だろうってなったときにみんなそこを見るので、このプロジェクトはいくらだとか、このプロジェクトはこんなに売れているっていうお金の話ばかりになっちゃうなっていう課題感があるんですね。
そこでslothでは、自分のナマケモノのNFTに着せ替えをして、自分なりのコーディネートを作って公開できるとか、そのためにちょっと素敵な服を買うみたいな感じで、ゲーム的な要素に寄せています。
一方、ゲームとして作り込みすぎると、それはそれでついていけなくなる気もするので、最低限に抑えてやっていたりします。
そして『100話で心折れるスタートアップ』ともコラボをして、衣装を作っています。
えい:準備させていただきましたね。
けんすう:コラボできるっていうのが個人的に面白いなと思ってるところで、やっぱり企業の人とか、まだNFTをそんなに触ってない人たちって、あまりNFTを始めようとしないんですよね。
なぜなら、めちゃくちゃ難しいからです。さまざまなことを考慮しなければいけないので、それは少し大変ですよね。
その点、衣装でのコラボだと、簡単にNFTを販売したり配布したりできるのがいいなと考えています。
今回は、ウサギさんの服を着ている感じで、ビールを持っている衣装にしてもらいました。
配布方法は後々決まると思いますが、興味がある方はぜひ見てみてください。
それでは、そろそろお時間ですが、えいさんのほうで、改めて本の告知などお伝えしたいことがあればお願いします。
えい:『100話で心折れるスタートアップ』の書籍版が、今月に出る予定です。
漫画だけでなく、特典として各話に解説が載っていて、そこに力を入れています。各話に約400文字ほど載っていますので、そちらを見ていただけると、連載時とは違う楽しみ方ができるかと思います。
けんすう:スタートアップをやりたいと思っている人にとっては参考になるということですね。
えい:はい、まさにそういった方に読んでいただければと思い、解説を書いています。
けんすう:いいですね。ちょっと、どんな漫画かまずは読んでみたいという人のために、最初から読めるTogetterのリンクを貼っておきます。
これを見て面白そうだと思ったら、ぜひ書籍版を購入してみてください。
漫画を100話まで読むと、スタートアップに関する知識が得られると思いますし、これからスタートアップを始める人にとっては勉強になると思いますので、ぜひ見てみてください。
えい:それから、さっきも話が出ましたが、NFTゲームのスタートアップを再び始めようとしています。
もし参加に興味がある方がいれば、ぜひDMをください。
けんすう:これは、えいさんに直接送ってもらって大丈夫ですか?
えい:はい、僕まで直接DMをお願いします。
えい:漫画の中で犬さんという方が出てきたと思いますが、モデルになった人物は、僕が長く一緒にやってきた方です。
次のスタートアップも、犬さんと一緒にやります。スタートアップに興味がある方や関連の仕事をしている方がいたら、ぜひDMをください。
けんすう:すごくいい話ですね。話を聞いてみたい方がいたら、ぜひお願いします。
それでは、今日はありがとうございました。
えい:こちらこそ、ありがとうございました。失礼します。
というわけで、えいさんとの配信でした。
繰り返しになりますが、きせかえできるNFT「sloth」、一般販売中です。
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