『100話で心が折れるスタートアップ』の本のあとがきを公開します!
こんにちは!
『100話で心が折れるスタートアップ』というTwitterで連載していた漫画があるのですが、書籍化するらしいのです。
漫画自体はこちらでも読めます。
光栄なことに、あとがきをお願いされたので、このnoteで特別に掲載させていただきます!
そして、4/4の21時から、Twitterスペースでお話もします。こちらも是非!
特別寄稿 『100話で心が折れるスタートアップ』を読んで
点と点を線でつなげるか
この「100話で心が折れるスタートアップ」は、タイトルの通り、100話をかけて、スタートアップ起業をした若者が、心が折れてしまい、諦めるところまでを描いた話です。スタートアップという、起業などに興味がない人にとっては、なかなか想像しづらい環境を、生々しく描いたことで話題になりました。
この企画の元ネタは、大ブームを起こした「100日後に死ぬワニ」であることは言うまでもありません。100日後に死ぬワニをご存知でない方のために簡単に説明すると、「100日後に死んでしまうワニくんの、何気ない日常を描いた、SNSで連載されたコマ作品」です。この日常の先に、どのようにワニくんが死んでしまうのか、というところが注目のポイントであり、ツイッターで固唾を飲んで多くのユーザーが見守っていました。
本作である「100話で心が折れるスタートアップ」は、そのテンプレートを忠実に踏襲しつつ、新たな要素を付け加えたことが特徴です。それは「物語を通した起業のハウツー」であり「起業家からすると、一言言いたくなる内容」であることです。
起業したときに起こるさまざまなトラブルを物語形式で伝えたものとしては『成功者の告白』(神田昌典、講談社)が有名です。起業で起こる出来事を小説形式で追体験することで、事前に学ぶことができる名著です。本作も、現代のスタートアップのリアルに近い形の内容になっており、これから起業を目指す人が参考にしたり、起業家があるあるネタとして楽しめる中身になっています。
また、一言言いたくなる、という要素が本作をさらに充実したハウツーコンテンツにさせている面にも注目です。多くの起業家が「これはよくある」とか「心が痛い」と投稿したり、逆に「ウサギさんのこの行動は間違っている」「こんなので心折れるのはぬるすぎる」などの反応をしていました。
これらの起業家による投稿も併せて読むことで、さまざまな起業の体験談や知見を知ることができるようになっています。
あらゆる行動が「点」だった
さて、実際の起業家の立場からしてみるとこの作品の内容はどのように感じるのか、という点にも言及していきたいと思います。申し遅れましたが、この説明文を書いている筆者も、スタートアップ起業家であり、現在3社目を経営している連続起業家です。
1社目も2社目もイグジット、筆者の場合は両方とも有名企業にM&Aされていますので、その意味では成功しているともいえますし、だからといって、多くの人に知られたサービスを作れていないという点で、まだ実績としてはまったく大したことないとも言えます。ウサギさんと大差ありません。 一方で、イグジットで得た資金の多くをスタートアップ起業にエンジェル投資家として50社以上に出資をしているので、さまざまなスタートアップを近い距離で見ていたりもします。
さらに筆者は本作に親近感を覚える経歴を持っています。たとえば、2社目の時にはメディアを運営しており、3社目の今では、漫画に関わるサービスを創ったり、NFTに関わる事業をやっているからです。また、ヘビーなツイッターユーザーでもあります。
そういった意味でも、マンガという形で、キュレーションメディアやNFTに関しての起業の物語をツイッターで読めるというものは、筆者にとってはあまりに身近なコンテンツでした。あまりに近いのでいろいろ言いたくなってしまうため、見るのをなるべく控えてたくらいです。
そんな起業家の立場からみると、たとえば、初期の創業メンバーを採用すべき人ではなく、採用できる人を集めてしまったり、資本力がないのに事業アンケートに100万円使ってしまったりなど、突っ込みたくなるポイントが山程あります。ヘビーユーザーの意見を聞きすぎてしまったり、巨大なプロジェクトを同時に2つ立ち上げて、採用も加速させてしまったり。いわゆる「アンチパターン(かならず悪い結果になる、すべきではない方法)」と呼べることをたくさんしてしまっているのですね。
しかし、一番重要なことは、あらゆる行動が「点」になってしまっていることです。ウサギさんの行動は、誰かから言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまったり、一つひとつは間違っていない行動をしているけど、線で見た時にイマイチ、という状況なのです。
実は、上記であげたアンチパターンも、点で見ると間違いかどうかはわかりません。たとえば、フェイスブックの創業メンバーなどは、寮で一緒だった親しい友人だったりしますし、事業アイデアを選ぶのにしっかりとコストをかけることで、適切な市場を選べた会社もあります。みんなの意見ではなくて、たった一人のヘビーユーザーに向けてのみサービスを作ることで、深い課題解決をできているサービスもありますし、一気に人を集めて、巨大なプロジェクトを同時に成功させて市場を制圧する会社もあります。
もしかしたら、ウサギさんは「点では正しいことをやっているが、線で見たときには、ちぐはぐなことをしてたから失敗した」とも言えるかもしれません。メディアで成功しつつも失敗したときに、次はアプリでツールを作るというのは、まったく前の反省や知見を活かせていないわけです。さらに、アプリで一定の収益をあげて黒字化したにも関わらず、その資産を活かさずに次のNFTプロジェクトをはじめてしまっています。
もちろん、起業ではいきあたりばったりで対応せざるを得なかったり、今やっていることとはまったく別の事業をやるべきタイミングもあります。しかし優秀な起業家は、そこに無理やりでも「線」を見出すのです。
スティーブ・ジョブズはこれを「Connecting the dots」と呼びました。将来を見据えて点をおくことはできなくても、点と点がつながることを信じなければいけない、ということを、かの有名なスタンフォードの卒業式スピーチで述べています。
無理やりでもいいから、線でつなげようとすると「メディアで培ったユーザーにわかりやすく説明 する力と、アプリ開発の知見を使って、最もわかりやすいNFTのマーケットプレイスをまず作ろう」などとなります。一見ウサギさんの案と変わらなく見えるかもしれませんが、わかりやすさ、というオリジナリティが生まれるわけです。
無理やり線にする
起業で大事なこととして、「創業者が本当に解決したい課題である」ということや、「強いミッションを持っている」などがよく言われます。もちろん、これらが大事なケースもありますが、周りを見ていると創業時に強い想いや原体験、ミッションを持っている人は意外なほど少数です。持ってたとしても、お客さんにぶつけたときにニーズがなければ、事業は立ち上がらないからです。
成功する起業家に共通しているのは、ほぼ市場選定とタイミングです。よい市場を選び、よいタイミングで参入すると、起業家の実力とはさほど関係なくうまくいきますし、逆にダメな市場に優秀な人が参入しても、まったく成果がでなかったりします。
かといって、適切なタイミングを図ってその市場に入ることはかなり難しいともいえます。運の要素が大きすぎます。「ブロックチェーンやメタバースがこれから来る」というのは誰しもわかっても、それが1年後なのか3年後なのかは誰にもわかりませんし、予測つかないことが起きた時に、そのタイミングがずれたりします。
つまりは、自分の課題感やミッションから事業を創ってもお客さんが欲しいかどうかはわからない、 それ以上に市場とタイミングが重要だが、それを測ることは不可能、という状態で事業を起こすのが起業家なのです。
こう見ると、もはや「成功する、しないは単なる運じゃない?」と言いたくなったりもしますが...。そんな中で、起業家は「それぞれの出来事の点と点を、無理やり線につなげて、強引に成功まで持っていく」というのが求められるのではないかと感じています。無理やり自分の土俵を創ってしまう、というイメージに近いでしょうか。
筆者も、あらゆる大量の失敗をしてきました。潰したサービスは100近いのではないかと思います。しかし、それらをすべて、「線」で説明することができます。そこに妥当性があるかはわかりませんが、自分の中では、あっちにいったりこっちにいったりしながら一つの線として成り立たせており、それがオリジナリティを生み出している、という感覚があります。
「点」でみた時のウサギさんは、超優秀だとは言えないものの、そこまで悪いものでもありません。しかしながら、「線」にしていく狂信的な部分が足りなかったのではないか、というのが筆者の仮説です。
そして、そんな線なき起業家の話が、「100話がそれぞれ独立した話でありながら、100話を続けることで、スタートアップで心が折れる起業家の話を描く」という形で表現されていることは、不思議な皮肉を感じておもしろいなと思っています。
本作は、起業の失敗が描かれた一つのハウツーとして読むのも良いと思いますし、ツイッターでみて、さまざまな起業家の反応も含めて読むのもよし、「こんな辛いこと絶対したくないな」と思いながら安全圏から楽しむのもよしだと思います。
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