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尾原、深津、けんすう対談「GPT生成AI、その先の未来」(中編)

こんにちは!

今日の記事は、先日にやった尾原さん、深津さんとのAIについての対談記事です!

前編はこちら。

プレイヤーの没頭を調整する「AIディレクター」

尾原:ポジティブ心理学的な話でよく言われるのが、クラフト系のゲームはフロー(没頭)に入りやすいということです。

人間は、難しすぎると不安になって、簡単すぎると退屈になります。でも、不安に行き過ぎない高度な感じを続けていると、達成と成長が好循環でグルグル回るから、時間を忘れて没頭できるんです。

深津:『Left 4 Dead』というゲームに、そういうシステムがついているんですよ。

けんすう:へぇ~。『Left 4 Dead』って、知らない。

深津:ファーストパーソン(ファーストパーソン・シューティングゲーム:略称FPS)のゾンビ倒しゲームです。「AI-Director(AIディレクター)」というのがついていて、「ゲームのダルさ」みたいなものを見張っているんですよ。

プレイヤーが、平和で何もなくのんびり歩いていると、物陰とかにゾンビを置いてトラップを仕掛けてきます。また、敵に包囲されてピンチの時には、さりげなくアイテムを追加してくれます。「ダレの指標」のようなものを見かけたら、ダレない方向に物を置いたりするらしいんですよね。

尾原:なるほどね~。

けんすう:自動的にやっているということですよね。

深津:そうです。自動的にテコ入れするということです。

けんすう:おもしろい。

深津:これってRPGのゲームマスターの仕事、そのものじゃないですか?

尾原:スクエ二(スクウェア・エニックス)の三宅(陽一郎)さんが、昔からAIと哲学の話をしています。

例えば『FF(ファイナルファンタジー)』では、ユーザーが退屈してくると、マクロのAIがパラメータチューニングして、「ベヒーモス(FFに登場するモンスター)」を怒りっぽくしています。

けんすう:オンラインゲームの『FF』ですか?

尾原:プレステ4(PlayStation 4)の『FF』にも、原初系のものにはそういったシステムが入っていると聞きました。

けんすう:へぇ~。

尾原:おもしろい話でいうと、イスラエルのスタートアップでは、ジョイスティック(ゲームコントローラー)の反応速度を見ています。

人間は、不安が高まると反応速度が異常に早くなるらしくて。ジョイスティックの動きから、「今この人は緊張しているのか、不安になっているのか、退屈になってるのか」をパラメータで把握して、難易度を調整しています。

また、ユーザーが退屈してくると、本当は弾に当たっているのに、AIを使って「俺、ヒーローとしてうまく回避できた」と錯覚させます。そうすると人間は興奮状態になって、だんだんスキルが上がってきて、成長しているように見える。そういったことをAIで研究している、イスラエルのスタートアップがいるんです。

けんすう:おもしろい。それを仕事でやってほしいですよね

尾原:だから、このへんのバランスだよね。「ブルシット・ジョブ(無意味で不必要な有用雇用の形態)」と呼ばれるような、「ひたすらコピーを考えます」という作業をAIに置き換えていくのか。

もし人間が400円くらいでバナーを作ってくれるなら、GPT-4よりも安いから、人間がブルシットジョブを快適にできるように楽しませるのか。または、その掛け算なのか。

けんすう:『少年ジャンプ+』と作った「コミコパ」では、「とにかく話をしたい」「励ましてほしい」という機能がよく使われてますね。

尾原:へぇ~。

けんすう:「やる気がないんですけど」という時に、相談に乗ってくれます。

GPTとの対話で生まれる円滑なコミュニケーションと仕事の進化

尾原:論文が出ていましたが、患者さんの質問に対する回答を、医師とGPTで比べたら、説明の質も共感性もGPTのほうが高かったという話があります。GPTのほうが圧倒的に患者さんに寄り添っていると。

けんすう:そうなんですよね。GPTは怒らないですからね。逆に社内でも、社員が僕にChatGPTのような質問を送ってきて、僕もChatGPTのように返すようになったら、コミュニケーションがめっちゃ円滑になったんですよ。

深津:あ、わかる。

尾原:どういうこと?(笑)。

けんすう:「〇〇のマーケティングの手法を考えてください。こういうアウトプットでお願いします。7つ出してください」みたいな感じでこちらも7つ出すと、円滑です。半分冗談でやっていたのに、すごく良かったんですよ。

人間同士でも、お互いにChatGPTだと思ってやり取りしたほうが生産性がグッと上がるなと思いました。

深津:わかります。ChatGPTを通じて、会話ワークフローが標準化されていっていますよね。

けんすう:そうですね。これはけっこうおもしろいなぁと思っています。

尾原:以前、深津さんと『日経クロストレンド』(の対談)で話した時に、まさにそのテーマになりました。GPTは知識がたくさんあるけど、まだまだ新卒の社員のようで、阿吽の呼吸で動いてくれない。だから、発信者側が誤解のないように伝える訓練ができます。

でも、今のけんすうさんの話を聞いて、仕事をお願いする側のコミュニケーションミスも減るけれど、仕事をお願いされる側の気持ちも変容しているように思いました。

けんすう:「ChatGPTにはここまで言わなきゃわかんないよね」というのは人間でも同じです。「こういう形式で7つ出してください」くらいまで言ったほうが、お互いに何をすべきかが明確になるという感じかもしれないですね。

学び合いを促進する「おせっかいGPT」

けんすう:「SlackbotにChatGPTを入れていると、他の人が学習できる」というのもけっこう大事だなと思っています。仕事に慣れていない人ほど、ChatGPTに慣れなくて、「何を質問したらいいのかわからない」と。

深津:わかります。

けんすう:「深津式(プロンプト)」のようなものがあれば、それをマネすればいいだけなので、それがけっこう大きいです。

深津:フォーマットがあると、ラクですよね。

けんすう:そうですね。やっぱり、これがすごく大事なんだなというのは感じます。

尾原:お絵かき系AIは、プロンプトと絵をセットで見せ合います。

例えば、Midjourneyはそれがストリームで流れてくるから、お互いにプロンプトを磨き合うようなコミュニティ設計が自動でできるじゃないですか。

言語系でそういう環境設計をしているところは、まだ出てきていないんですかね?

けんすう:ChatGPTがシェア機能をつけたので、人に見せやすくなったのはありますね。

尾原:確かに。

深津:チュートリアル機能付きのGPTは試していますけどね。

尾原:あ~、なるほど。

けんすう:「こう聞くといいですよ」と、GPT側が教えるものですね。

深津:そのとおりです。普通のGPTよりもフレンドリーなGPTは、プロンプトとして作っていますね。

尾原:そうですよね。チュートリアル機能自体も、持たせてもいいものね。

深津:「おせっかいGPT」みたいなね。

けんすう:はいはいはい。

尾原:僕が今プロジェクト系でやっているのは、チェーン・オブ・ソート(Chain-of-Thought :ChatGPTのレスポンスを向上させるプロンプトテクニック)です。

ChatGPTの思考のステップや制約条件を、常にChatGPTに伝えて、「今、こういう条件で考えてくれているなら、次はここを変えていきましょう」と共有していきます。そのあたりは、絶対に出てくると思うんだよね。

オフラインが秘密兵器に:AI時代の情報収集

尾原:僕たちはInstagramの発明によって、10年間で写真のセンスがめちゃくちゃ良くなっていると思います。そして、TikTokの登場によって、動画のセンスも良くなっていますよね。

これと同じで、ズレのないインタラクションを磨き合う場を作ると、問題を設定するセンスが、10年間で爆上がりするんじゃないかなと思います。

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