マンガのネタバレ問題がややこしい理由

アルというマンガサービスをやっている、けんすうと申します。いろいろな人がピリピリしているので、火中の栗を拾うのはやめておいたほうがよさそうだなあ、と思いつつ、「これ僕が書いたほうがいいのでは」という気持ちが拭いきれないので、書いてみます・・・。

マンガのネタバレ問題が話題になっています。

発端は、『キン肉マン』の作者である、ゆでたまご先生が、SNSなどでの画像利用について心を痛め、以下のようなお願いを出したことです。

これ、是非とも本文を読んでもらいたいのですが、要点としては

・読んでくれた皆さんの感想がすぐにわかるのは励ましにもなるし、モチベーションにもなる
・悪影響なのは、漫画原稿や内容が簡単にSNSにあげられてしまうこと
・感想を自由に述べ合ってもらうのは構わない、大歓迎。
・読者が明るい気持ちで学校や会社にいけるように一生懸命描いているキン肉マンが、望まない形でSNSにあげられて、20ページの原稿すべてを読んだように思われるのが残念。全部読んでくれたらもっともおもしろいのに。
・他の読者の皆さんへの配慮が一番気になる。人によって読むタイミングが違ってきている。
・誰かが悲しんだり、怒ったりするような可能性は控えて、お互いに思いやりを持って楽しんでもらいたい

という感じです。あくまで、感想は大歓迎だし、モチベーションにもなるけど、望まない形で画像や内容があげられてしまって、それにより他の楽しみにしている読者が悲しんだり怒ったりするのは控えてほしい、という感じです。

個人的には、読者が感想などをSNSでやりとりすることへの肯定などをしっかりとした上で、ネタバレは思いやりを持とうね、という書き方にしており、丁寧に書かれているな、と感じているのですが、そのあとの編集部からの

著作権の侵害にあたり、場合によっては刑事罰が科され、あるいは損害賠償請求の対象となります。悪質な著作権侵害、ネタバレ行為(文章によるものを含みます)に対しては、発信者情報開示請求をはじめ、刑事告訴、損害賠償請求などの法的手段を講じることもありますので、ご注意ください。

という文章を読み、一部の人の中では「もう怖くてSNSに書けない」みたいな人もいたりするわけです。

で、この問題の大事なところの一つは、「ネタバレ」というものの言葉の幅が広すぎて、「いったいどこからどこまで?」というのがあるのが問題じゃないかと思うのです。

そして、そのことにより、「権利者が思うダメなネタバレと、読者が考えるダメなネタバレが微妙にずれている」ということがおきたり「法律上ではOKだけど、権利者的にはやめてもらいたいこと」というのがあったりしているのかなと。

というわけで、そこを整理するだけでも価値があると思うのでやってみます。

ネタバレの整理

まず、ネタバレの種類は「画像」と「文章」があります。画像とは、要はスクリーンショットや、マンガのページの転載ですね。

次に、ネタバレは「内容がクリティカルか」「そうではないか」というのもあります。そのネタがばれた時の深刻度、とでもいえばいいでしょうか。便宜上「ネタバレ深刻度が高い/低い」というものがある、としておきます。

さらに、ネタバレ分量です。たとえ、ミステリー漫画の、なんてことのないギャグ回であり、全体を通してそれが転載されても作品を読む楽しみは減らない・・・というものだったとしても、1話まるごと転載したら、それはNGなわけです。

というので、このあたりを整理した画像を貼り付けておきます。

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ネタバレにはこの四象限がある、という前提で進めていきます。

で、この中で「権利者は何をNGと思っているのか?」というのを整理していきます。

※念のためのなのですが、権利者によって意見は異なったりするので、これが一律で正しいというわけではありません。マンガサービスをやってマンガ業界の端っこにいる身として、多くの作者さんや出版社さんと話をした中で、「肌感覚的にここはNGと思っているんだな」というのをまとめたもの、くらいに捉えてもらえるとうれしいです。

ネタバレ深刻度が高い x ネタバレの分量が多い

まず誰しもが認めるダメなものが「画像で1話まるごと転載している」ケースです。

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これは普通に逮捕されたりするので、多くの人がNGだと認識しています。漫画村とかはこれを大規模にやったサービスなので社会問題化しました。

次に、意外と意見が分かれるのが「1話の流れを詳細に書き起こし」したネタバレです。「ネタバレブログ」と呼ばれたりしています。

これは権利者からしてみると、NG度が高いけど、読者や、ブログ運営者から見ると「画像のまるごと転載じゃないからセーフ」と思っていたりするケースが多いです。

しかし、これも画像転載よりはまだマシだけどNGだと思われています。

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これらの何が問題かというと、人気マンガの最新話をほぼあらすじをテキストでかき、セリフを引用しまくり、一部のコマを「引用」といって載せていたりしており、事実上、内容を把握するのがほぼできてしまう状態にあることです。

「単行本派だけど、雑誌を買うつもりはない、でも内容は知りたい」という層が見たりしていて、載せているほうは広告を貼り付けることによってマネタイズしています。まあ、作品が好きじゃない人がやっている、とまではいわないですが、かなりお小遣い稼ぎとして機能はしています。

映画とか多くの小説、ドラマとかでは、こういうネタバレは起こらない分野なんです。映画や小説はまるごとのあらすじを知りたいというニーズが弱いんですよね。

しかし、マンガは、続きが気になるし、単行本になったら買うけど、その作品のためだけに雑誌は買いたくない・・・という層がいるから、このように「あらすじをまるごと載せてお小遣い稼ぎ」が可能になっているともいえます。事実、検索エンジンでは「作品名 3話 ネタバレ」のようなワードにかなりニーズが高くあるのです。

「テキストでのネタバレもダメ」といっている作者さんや出版社の人がいう時は、この「ネタバレブログ」が頭にあることが多いです。

ちなみに、これに判例などがあるかどうかは、ごめんなさい僕は知らないんですが、個人的には裁判になったら負ける可能性があるんじゃないかと思っています。

やっている人も、そこを避けるために「あくまで引用だ」というのを言えるよう、あらすじの2倍くらいのがっつりと感想を書いているブログも多いのですが、目的があらすじを読みたい人に読ませる、というものであれば、NGと思われてたりします。

このネタバレブログは、読者からも支持されており「あらすじだけ知りたい時に便利」とか「最新巻を読む前に、前の巻までのん復習をするのに便利」みたいな意見もあるのがまたややこしいところです。

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というので、まとめると、ネタバレ深刻度が高い x ネタバレの分量が多いというケースは、結構な割合でNGと思われていることが多いです。

ネタバレ深刻度が高い x ネタバレの分量が少ない

じゃあ、分量が少なければOKかというと、それはまた難しくて・・・。

ネタバレの深刻度が高いコマなどだと、作品自体の楽しみを削ってしまうことがあります。テキストも同じですね。なので、ここは権利者からみると、NGということになります。

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たとえば、「ミステリーマンガの犯人」が公開される驚きの回のコマ画像が出回ったらどうでしょうか。読んでいる人もつまらなくなりますし、作者も驚かせたい気持ちで描いているのでがっかりしてしまうでしょう。

驚きがなかったとしても、最大限まで高まって最後に解消する気持ちよさがあるマンガもあります。たとえば、ラブコメで、最後に結ばれるんだろうな・・・と思っている2人が最後のシーンでキスをした!みたいなものも、その画像だけが出回ったら・・・なんかテンション高く読めなくなってしまいそうです。

これは、物語の核心に迫る内容の時はもちろん、1話の流れとして、最後のコマで驚きを持ってきたい、という時などに、そのコマがシェアされたら権利者的にはNGといいたくなるものだと思います。

そして、ややこしいのが・・・。この画像を、あくまで引用の範囲内で行われた場合、法的処置がとれるかどうかは難しいのですね。たぶん無理なんじゃないでしょうか。

ネタバレに関する判例とかを検索できる限りで見ても、やはり画像の無断転載などで刺すしかないぽく・・・。「このミステリーの犯人は○○だったその理由を考察する」みたいなもので、1つのコマが引用されており、あとは全部考察だった場合、引用の範囲内として見なされそうです。

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というので、「権利者的にはNGの行動なんだけど、法律的には(たぶん)問題ない」というケースになってしまいます。

なので、このあたりは「やらないでね」というお願いベースになりますし、読者の良識や倫理感に任せる範囲になります。

ネタバレ深刻度が低い x ネタバレの分量が少ない

一方で、ネタバレが深刻でない画像の利用などです。これは、ネタバレの深刻度が低いマンガのコマの利用などは、OKだと思っている権利者も多くいます。

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もちろん、NGの人もいます。

ここがややこしいのは、「著作権法的にはアウトのケースもあるけど、作者が何も言わない、黙認している」というケースが多々あるということです。つまり「権利者がダメだといったら刺される可能性があるし、権利者は全然OKだと思っている、むしろ宣伝になるなら歓迎、というケースもある」ということです。

ちなみに弊社の話で恐縮ですが、アルの場合、この「ネタバレが深刻でない、ネタバレの分量が少ない」画像をシェアできるようにしている、という機能を提供しています。

マンガのコマをシェアしたり、ブログで使う場合に「権利者がいいと思っているのか、ダメだと思っているのかわからない」「著作権的に問題があるなら怖い」みたいなことはよくあり、それをみんなが自粛すると、ネットの中でのマンガを目にする機会が減ってしまうので、そこを整理して、権利者がOKをしてくれる作品のコマを、適切に投稿できるようにし、シェアも可能にしているという機能です。

これを使うと、noteとかにも人気のコマが貼れたりするので、マンガの宣伝に使えないか・・・という取り組みです。

また、「セリフの中を変えて、ネットミーム的に使われる画像」などに関しては、公式でジェネレーターを作ったりもしています。たとえば「しあわせアフロ田中」の「誰も消防車を呼んでいないのである」というシーンがあるのですが、ネットで非常によく使われるのですね。

こういう、「転載は宣伝になるからOK、読者が楽しんでくれるならOK」と思っている作者さんもいるということで、むしろそこを公式化することで、みんなが得をする形にならないかなと思って作っていたりします。実際これは、開始すぐに1万件近く投稿されていました。

宣伝ぽくなってきてしまったので話を戻すと、こういう感じで「著作権的にはNGだけど、作者的には、結構な数の人がOKを出す」みたいなのが、「ネタバレ深刻度が低い x ネタバレの分量が少ない」部分のコマです。

ちなみに、ここの象限は、テキストの場合は全く問題ないはずです。

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ネタバレ深刻度が低い x ネタバレの分量が多い

最後ですが、また、ネタバレの分量が多かったとしても、これから読む人に最大限考慮をした上で、一定の分量を引用し、その上で論評や感想を書くのは問題無いと考える著作者が多いです。

ただ、当たり前ですが「核となるネタバレがない1話をまるごと画像で転載」はNGです。

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まとめると

というので、長くなりましたが、論点をまとめると・・・

「ネタバレ深刻度が高い x ネタバレ分量が多い」の部分で、テキストはOKだと思っている人がいるけど、NGと思われてる
→これは権利者的にはNGと思われがちで、かつ法的にも違法の可能性があるんですが、画像のまるごと転載ほどわかりやすさがないので、警察などはさくっと動いてくれない?などの問題があり対処しづらいのではないかと思います。それをやるなら、違法性の高い画像まるごと転載にリソースは割くべきですし。

なので、ここも読者の倫理感に任される部分ではあると思うのですが・・・お小遣い稼ぎとか副業的にやっている人もいそうなので、誰かが逮捕されたり訴えたりされることでニュースになら無い限りは、しばらくは残りそうです。

「ネタバレ深刻度が高い x ネタバレ分量が少ない」のは、法的には問題がないケースが多く、読者の倫理感などに委ねる必要がある。
→法的には問題ないけど、権利者的にはNG度が高いので、最大限「配慮」をするしかないということです。

「ネタバレ深刻度が低い x ネタバレ分量が少ない」のは、法的には問題があるケースもあるが、OKの場合もある。
→ネタバレ深刻度が低ければ、宣伝などになるし、OKというケースもあります。しかし、これは作者の気持ちを考えてやるのも限界があるので、なるべく公式や許諾とれているものを使えるようにする場を提供するほうがシンプルだと思います。著作権的に問題がない範囲に関しては(ネタバレに配慮したTwitterでの感想など)は、もちろん全く問題なしです。

「ネタバレ深刻度が低い x ネタバレ分量が多い」
→著作権に抵触しない限りはOK。

という感じになります。

ややこしいのは「著作権法だけを気にしていればOK」というわけでもなく「権利者が問題無いと思っていても、著作権的にNGのケースがある」ということですね。

ということで

このあたり、権利者側からはいいづらかったり、整理しづらかったりすると思うので書きました。

これ、整理して評論して終わるのは、ちょっと無責任だと思うので、最後に僕らが何をできるかどうかも書いておくと・・・。

上記の中で「曖昧に黙認しているところとかを、公式でバーンとやることで、作者や出版社の人も幸せ、ネットにいる人も幸せ、という形にできないかと、いろいろなコラボとかをしています。

というので、「権利を適切に守りつつ、それによってネットの人が萎縮してマンガの勢いが落ちないようにしたい」という気持ちでいろいろやっているので、「こういうのやりたい!」とか「なんか困っている!相談に乗ってくれ!」みたいな権利者の方は是非お問い合わせください。


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