「AIなどの最新テクノロジーをどう見ていますか?」グロービス・高宮慎一さんの感じる最先端の技術とビジネス

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VRやAI(人口知能)といったテクノロジーが急激に進化し、「あれもできるようになった」「これもできるようになった」というニュースをよく見るようになりました。「人間がやっている仕事は、いずれロボットに取って代わられるのでは」とも言われています。一方で、こういったテクノロジーを使ったビジネスで起業しようとする人もいます。

ところで、最近のテクノロジーの進化について、投資家のみなさんはどのように感じていたりするのでしょうか。グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一さんに聞いてみました。

(聞き手:古川健介)

高宮慎一・・・ベンチャーキャピタリスト。戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて事業戦略やイノベーション戦略立案などをチームリーダーとして主導した後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画。コンシューマ・インターネット領域の投資を担当する。主な支援先には、アイスタイル、ナナピ、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど。

最新技術「何に使うんだっけ」問題

高宮慎一さん(以下、高宮):もちろん、僕自身も新しいテクノロジーベースのイノベーションが出てきているように感じています。インターネット/ITという蒸気機関に匹敵する大きな技術が成熟し、ほぼほぼ普及したとき、全く新しいディスラプティブな技術体系が登場する。そんなタイミングだと思うんですよね。AI、VR、IoT、ドローンロボティクス、ブロックチェーン、再生医療とか…。

だけど、今はまだ「何に使うんだっけ」問題がある気がします。新しい技術による開発フェーズは終わり、要素技術は完成されつつある。そして、「この要素技術で、こんなおもしろい機能を実現できるよ」って状況になっているんだと思います。でも一方で、ユーザーや市場では「おもしろいね!でも、何に使うんだっけ?」となっていたりして。

新しいテクノロジーでイノベーションを実現するには、マーケットインの視点で市場のニーズ、使う人が持っている今の不満に対して、テクノロジーのシーズ(種)をマッチングさせないといけない。

これは、ニーズとシーズのマッチングとも言うし、テクノロジーアウトとマーケットインの融合とも言います。今、それを求められている状況ですね。

この問題をクリアするには、テクノロジーを持っている人と、マーケットを見ている人を引き合わせる必要があります。なので、最近一番やりたいと思っているのは、その両者を引き合わせられる、物理的な場とコミュニティを作ることです。

―これに関しては、たとえば「高速道路を作りたいのか」「その上で走る車を作りたいのか」もしくは「宅配便ビジネスをやりたいのか」というのを、やる側が見極める必要がありますよね。

「AIが流行っているからやってみる」といって、道路を作るような仕事をしても、莫大な資金と人材リソースがあるGoogleに全く勝てない、ということも起こりかねません。

高宮:そうなんですよ。AIのような、大量なデータ&それを処理するアルゴリズムの両方が重要なものの場合、既に圧倒的なデータを持っているところが有利だと思います。もしかすると、最終的にAIのAPIを公開して、すべてGoogleのAIエンジン上にサービスが乗っかる可能性もありますよね。AmazonのクラウドAWSみたいに。

インターネットの初期にIPv6(インターネットプロトコル)を作った人が儲かったかというと、実はそうではない。結局、WindowsやYahoo!、Google、Facebookを作った人たちが儲かっているわけです。そういう意味では、基礎研究や要素技術開発というよりも、それら技術をパッケージングして、マーケットに刺さるプロダクトに仕立てあげ、事業として規模化させた人のほうが、収益的には利を得たわけです。もちろん、それとは別のところで、収益以外の研究成果や社会的な価値みたいな利はありますが。

そのあたり、研究者だけでなく、マーケットや事業側の人間とセットでチームにしないと、イノベーション=社会にインパクトは残せないんじゃないかという問題意識はありますね。

今、キャズムが起きている

―なぜ、テクノロジーとマーケットがマッチングできていないのでしょうか?

高宮:簡単に言うと技術のライフサイクルだと思います。どんな技術でもそうだと思うんですけど、本格的な事業化が始まって産業になる前のフェーズには、まず技術開発があります。その次に、要素技術が揃い始めるフェーズでは「これをどう組み合わせて、マーケットに刺さるプロダクトとしてパッケージングするか」があります。そこで一度、技術が産業化し、本格的に普及する前のキャズムができているんじゃないかと思っています。

インターネットも、最初はアメリカ軍のネットワークとして歴史が始まり、80年代にTCP/IPが標準として設定されると、徐々に普及していきました。それからPCがきて、モバイルきて、今や誰でも身近な存在になっています。インターネットは普及するとともに、その裏っ返しでは、技術としても成熟化しているんです。

とはいえ、まだまだインターネットにも事業機会はあると思ってます。

大きく2つあると思っています。1つ目は、バーティカル(特定領域、業界)で濃くマネタイズするモデル。今ではいろんなバーティカルがあり、スマホではゲーム、ニュース、ECなどは特にプレーヤーが大きくなっていますし、競争も激しくなっています。残された領域は相対的には細く(小さく)なっているわけですが、スマホでのエンゲージが高くなったこと、課金手法の発達などで、細くても濃くマネタイズできるようになりました。

もう1つは、グロービスで「IT&IT(インフォメーションテクノロジー&インダストリートランスフォーメーション)」と言っている、後者の話です。ネットがリアルな産業に染み出していき、そこでゲームのルールを変えていく。ライフネット生命が生保業界を変えたイメージですね。

―なるほど。

ここから先は有料になります。今こそ「ネットエイジ」な存在が求められている、という話から、テクノロジーとビジネスをマッチングさせるにはどうしたらいいのか、などの話が続きます。

高宮:だけど今、すごく長期的な視点でダイナミックな技術起点のイノベーションが始まりつつあると思っています。産業の歴史でいうと、蒸気機関の発見に近いレベルのことが、インターネット周辺で起こっていると思います。

先ほども言ったとおり、この新領域がさらに発展するには、テクノロジーとマーケットが結びついている必要があります。そのためには、橋渡しをする人や場がなくちゃいけない。それぞれの産業の中で問題意識を抱えている人と、新しい技術はあるけど何をしたらいいかわからない人をマッチングしてくれる。もしくは産業側を横串で幅広く見て「こういうところでこんな悩みをもっているよ」と言ってくれる人が必要なんです。僕ら投資家も、場のファシリテーションであったり、産業と要素技術の橋渡しだったりを担わないといけないなと思っています。

求められる「ネットエイジ」な存在

高宮:ちょっと雑談っぽくなるんですけど。「コンビニで人が物を買うときの判断は3秒」と言われているじゃないですか。その3秒の表情のビッグデータを集めて、機械学習させると、本当に買う・買わないが判別できる…そんなことがもう実現しているらしいです。

―「マイクロ表情」を取るということなんですかね?

※マイクロ表情とは、0.5秒以下の持続しかない表情のこと。通常、意識的あるいは無意識的に自分の感情を抑えようとしているときに見られる表情。(表情分析より)

高宮:技術はそこまできているので、リテール(小売)の人たちが知れば「すぐやろうよ」「同じようなマイクロ表情認識を別のところで適用したら、こんなすごいことができるよ!」みたいなものが見つかるはずなんですよ。

とはいえ、テクノロジーの人たちはテクノロジーの人たち、個別産業の人たちは個別産業の人たちで群れちゃう傾向があります。だから、あまり結びつかないのかもしれないですね。

―それは感じますね。

高宮:テクノロジーの人も、個別産業の人も、それぞれのテリトリー内でしか交流がなく、双方が交差する動きが全然ない。だからこそ、この真ん中あたりに化学反応をおこすような場を作りたいんですよね。

僕、インターネットが普及するとき、この機能を果たしていたのはネットエイジだったと思っているんですよね。「インターネットを車に当てはめたらすごいんじゃないか」「リテールに当てはめたら、すごいことができるんじゃないか」から始まって、後のカービューやアマゾン・ジャパンもできたわけです。そんなふうにして、ネットエイジからさまざまなインターネットサービスが誕生したじゃないですか。こういったブリッジするような感覚を持ったプロデューサー機能を業界全体として持つべきだなぁと。

※ネットエイジとは、現ユナイテッド社。90年代に西川潔社長(当時)を中心に、インターネット業界の梁山泊と呼ばれるほどの起業家を創出した。(参考:「ネットエイジマフィア」を調べてみたけど凄かった)

さらにいうと、より産業側の人と、テクノロジー側の人を物理的な場でコミュニティをつなげるのが大事なんじゃないかと思っています。ネットエイジも90年代後半、当時とにかく面白い人たちのたまり場になってました。直接ネットエイジに関係ない人も(笑)。

テクノロジーと企業をマッチングするには

―テクノロジー側、企業側をマッチングするには、具体的にどうすればいいと思いますか?

たとえば、特定分野にくわしいエンジェル投資家を入れるというのもありますよね。「下着ベンチャーやります!」「じゃあ、下着メーカーの役員をエンジェルで入れる」みたいなものです。

(参考:非ネットな人がエンジェル投資に参加すれば、日本のスタートアップはもっと飛躍する — The First Penguin)

高宮:それはいいですね。「業界内で本当は何か起こっています」「工場のラインを自動化するときの悩み」みたいな深いところでのニーズにテクノロジーを当てはめていくことが大事だと思います。

ただ、今の日本ではまだサラリーマンの給与体系の延長線上で社長や経営陣になる人が多いので、エンジェル投資家になりにくいという悩みもあったりします。

あとは、役員、事業部長クラスで「業界の悩み」がちゃんと見えていて、組織も動かせる人がいると面白いんですけどね。ライフネット生命・出口治明さんのような!

※出口治明氏は、1948年生まれ、日本生命保険入社。企画部や財務企画部などエリートコースを歩み、2006年、ハーバード大学MBA卒の岩瀬大輔とともに生命保険準備会社ネットライフ企画株式会社を設立。2008年、生命保険業免許を取得し、ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長に就任。2013年、代表取締役会長兼CEOに就任。保険業界という、ベンチャーの新規参入が起こりづらい分野において、ベテランの生命保険業界出身者と、MBA卒の若手ビジネスマンが組むことで成功したベンチャーの例として有名。

―そうなんですよね。

高宮:シリコンバレーだと、マッチングイベントとかあります。この方法は、けっこうアリですよね。いろんな領域の新しい技術を持っているテクノロジスト、たとえばAIやVRの人を集めてきて「今、こんなことができますよ!」と企業側にプレゼンする。そして「それだったら、うちで使いたいよ!」と言ってもらう。

―なるほど。でも、それだと「大企業でその技術を採用する」みたいな話にもなりますよね。理想としては、業界の悩みをよくわかっている人がテクノロジー側の人と組んで起業して、新しいものを作るという感じですかね。

とはいえ確かに、企業側の人には「起業したい!」という人が多いわけではない、という問題もありますね。

高宮:そうですね。ホント、理想は一緒に起業しちゃうのが一番いいんですけどね。ネットエイジの時代は、どうやって双方をつなげたんでしょうね。たぶん、ネットエイジが前出の図でいうところの、ちょうど真ん中の立ち位置にいたんでしょうね。そこから、両方を見ていたんだと思います。

―そうですね。インターネットで何かやろうという人たちがたくさん集まっていて「どこにチャンスがあるか」を探すところから始めていたんでしょうね。今は、インターネットやAIと言われても、前ほどわかりやすくないというか。

高宮:何ができるかわからないし、普通のビジネスパーソンだと「強いAI」「弱いAI」と言われても「なんだそれ?」みたいになっちゃっていますから。要素技術が揃ってきても、その意味合いが普及していないんですよね。

強いAIと弱いAI - Wikipedia 

―そうかもしれないですね。「ディープラーニングがすごい!」といっても、それを自分たちの事業にどう使えばいいのかわからない、という状況があったりしますよね。

要素技術が多岐に渡りすぎている

高宮:以前、ある技術に特化したピッチコンテストみたいなものの審査員をやらせていただいたんですよ。僕以外の審査員はみんなテクノロジー側の人たちで、それも30年前から研究しているような人たち。

そこで、僕がビジネステーマ視点で「この技術とこの技術を組み合わせて、機械学習させれば、めちゃくちゃ精度高い工場のライン向けロボットができるのは」と言ったら、

・「テーマとしては面白いけれど、この技術じゃダメだ」
・「それは30年前から何回もトライされていて、このアプローチはダメだった」
・「企業側としては、AIで完全に自動化してしまうと、ラインでトラブルが起きたときに人力でラインを止める、修復ができないから抵抗感がある」

といった話がどんどん出てきました。そこで初めて「この技術では具体的に◯◯はできるけど、△△はできない」みたいな話を理解できました。

―僕も、画像認識のディープラーニングの人と話して「何ができる・できない」を聞きましたが、やっぱりいろいろ制約があって…。

高宮:そうそう、意外と細かい制約があるんですよね。だから「こっちはダメ、でもあっちはOK」とかもあります。

―テクノロジーと企業の真ん中にいる人たちが、いろんな産業のアイデアを持ってきて「何ができる」「できない」を仕分けできるといいですね。

ディープラーニングでも、違法画像の認識とかけっこういけそうでした。アダルト画像とか。ただ、人間の医者が患者の顔を見て症状を判断する…みたいなものは難しいらしいです。でも、占い師と同じことはできるみたいです。

高宮:「何か悩んでいますね?」と(笑)

―「この格好の人は銀行関係者じゃない」とか…。ともかく、要素技術が多岐に渡りすぎているのかもしれないです。インターネットは、当時インターネットしかなかったので、わかりやすかったのかなと。

高宮:要素技術の、選別の進み具合による気もしますよね。

「インターネットで高速データ通信します」といったときに、当初は通信プロトコルで何個も同じ機能を実現する技術的アプローチがありました。でも結局、1つに収束してIPv6になったみたいな。

難しいのは、まず「どの技術スタンダードが勝つの?」から始まり、次は「そのスタンダードの中で誰が勝つの?」「どのマーケットに入るの?」など、クリアすべきステップが増えちゃっているんですよね。

―確かに。「AIとWatsonを使うのが普通だよね」となると、そこから先は「Watsonを使って何をやるか」なので、わかりやすくなりますよね。たとえば、Watsonを使ったレシピサイトみたいなものがあって、人間が思いつかないおいしい料理を作るサービスなど。こういうものを使って、クックパッドの競合を作ろうという流れになるんでしょうね。

※Watsonとは、IBMが提供している、「自然言語処理と機械学習を使用して、大量の非構造化データから洞察を明らかにするテクノロジー・プラットフォーム」のこと。(IBM Watson: Watson とは? )

インターネットの先にあるもの

高宮:余談ですけど、食用芋虫は「海老みたいにおいしい」と言われていますが、仮にAIを使った料理サービスが完成した場合「これは確かにおいしいけれど、人間は受け付けない」みたいなところもわかったりするんですかね。どうなんですかね(笑)。

―どうなんでしょうね、「理論的にはおいしい」なときはどうなのか…(笑)。

そういえば、料理ロボットも登場し始めていますよね。英国のMoley Robotics社による「Moley」というものなのですが。コックさんの調理手順をインストールすると、料理ロボットがすべて完璧に再現してくれるもので、2017年には一般販売することを目指しているとか。

高宮:その料理ロボットが、食べている人の表情を読み取って、ビッグデータとディープラーニングを組み合わせ、各家庭のロボットにフィードバックをかけ、というようになったとしたら…。

―最高ですね。そういった、産業をひっくり返すようなものが出てくるといいんでしょうね。

話は変わりますが、Google DeepMindによって開発され、囲碁の対局で李世乭(イ・セドル)氏を破った「AlphaGo」が話題ですが、このCakesの記事がおもしろかったです。このあたりはどうでしょうか?

人間を超えたアルファ碁(AlphaGo)は、どのようにして強くなったのか|Googleの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?|大橋拓文/山本一成|cakes(ケイクス) 

高宮:こないだドワンゴ・川上量生さんと話をしてて「AlphaGo、新たな定石を見つけちゃって。いよいよ人のクリエイティブな仕事までAIに奪われちゃいそうですね」って言ったんですよ。

そうしたら、川上さんが「いやぁ、そこまでいってないですよ」と。というのも、AlphaGoの場合、超強力な演算で、人が計算できないような枝分かれしたところまで算出できたから、定石にない「変なイケてる一手」を打てたのだと。でも、上から基盤をぱっと見て、羽生名人が言う「大局観的なもの」からクリエイティブに新しい定石を発見したわけではないと。今のままだと演算力には限界があるから、そこで頭打ちになるとのことでした。

もうこうなってくると、テクノロジーにくわしい人に水先案内人をしてもらわないと、僕らには判断つきませんよ。インターネットだと、さすがに何ができそう・できなそうっていうのはわかるんですが。

―よくわからないですよね(笑)。僕もてっきり、画像認識だったから、なんとなく人間が大局観でやっていたものを理解できて勝てたんだと思っていました。

高宮: 蒸気機関から200年、インターネットから30年かかってここまできましたが、これからのテクノロジーはもっと短い時間軸で成熟すると思っています。蒸気機関やインターネットなどの前のイノベーションが全て背景にあるので。

それこそ、新しい技術起点のイノベーションであと2〜3年後には世界が大きく変わってしまう可能性もあると思っています。となると起業家も投資家も、今までのインターネット的なものの範疇だけでなく、今どんなテクノロジーが出てきていて、社会にどんな変化をもたらそうとしているのか。幅広く、かつ長期視点でウォッチしていくのが、大事だと思っています。

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